"その日"を超えて、私は強くなる。
アスリート50人×生理

#3

重量挙げ
安藤美希子

Mikiko Ando

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日本選手権10連覇&世界でメダル
生理を支えたのは「日記」

「やらなくていいよ」がうまく受け取れない

輝かしい成績。
重量挙げ(ウェイトリフティング)の日本一を決める「全日本選手権大会」で、安藤選手は2011年から2025年の間、10連覇を含む13回の優勝を成し遂げた。

世界でもその力を発揮している。
2017年 世界選手権大会 種目別 銀メダル
2018年 世界選手権大会 種目別 銅メダル
2021年 東京五輪 59kg級 銅メダル
オリンピックにおける日本女子の重量挙げメダルは、三宅宏実選手と彼女しかいない。

安藤選手が重量挙げを始めたのは高校生になってから。
小学生から中学のはじめまでは器械体操。中学は陸上競技をしていた。
高校生から始めた重量挙げだったが、大学生のときには日本を代表する選手の1人となっていた。

今年33歳。夫がコーチをつとめている。
そんな安藤選手に生理の話を聞いた。

キーワードは「日記」。そして「コミュニケーション」

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インタビュー(YouTube)

全編はYouTubeにて

以下、インタビュー抜粋

初潮は体操をやめたあとに

「一番最初に生理について思い出すことといえば、小学校高学年のとき、母から小さな袋を渡されたことです。『困ったら先生に見せてね』とだけ言われたんですけど、中身を確かめることもなく持って行きました。あとになって、あれはナプキンだったんだと気づきました」

「同級生の中には小5、小6で生理を迎える子もいました。でも私はまだで。小学校から器械体操をしていたのですが、体重を落としながら激しい運動を続ける競技特性のせいか、生理が来なかったのかもしれません。中1の終わりに体操をやめたのですが、中2になってすぐ、生理が来ました。ニキビが増え、急に体重が増え…、まさに思春期でした」

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競技への影響は
大学生になってから

「本当に大学生になってからくらいの話なんですけど、排卵期から生理の時期っていうのがどうしてもお腹の力がちょっと入りにくいとか、むくみでうまく握れない、握ってる感覚がちょっといつもと違うなっていうことを感じ始めていました」

普段100㎏あげられるところが、下手をすると60㎏、70㎏しか持ち上げられなくなるという。

「自分が思う動き、イメージする動きができない。全くかみ合わないんです。やっぱそこにストレスがかかるんですね。でもその状態でも一応頑張ればできるんですけど。納得いってない状態で練習をしても、達成感もないですし、満足感もないですし」

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日記に生理のことを
書き始めた

「大学に入ってから、毎日、練習内容と一緒に自分の生理周期の数字を日記に書き始めたんですね。生理が来た日を「1」として、1か月間の周期日数を数えていく方法です。数字を見るだけで、その日の状態を予測できるようになる。日記を何年も続けていると、過去の周期と練習内容の関係も見えます。『排卵日や生理の時期は、やっぱりうまく上がってない』と自分の心を落ち着かせることができるんです」

アスリートも部活生も、生理やPMSでパフォーマンスが落ちたときに自分のせいにしてしまう人も多い。また、特に部活生はそれが生理やPMSの影響だと気づかないことも。

「生理の時期、ちょっとしたことで本当にポロっと壊れちゃう。そこをなるべく生理中も安定して壊れない状態を維持することで、その次の生理周期の間に入るっていう形を取れたらいいなと思っています」

安定した心の状態を保つことが、次の周期を迎えるための支えになる。
そのために日記を書く。
日記には競技のこと、プライベートのことも書く。
そしてそこには「生理周期を表す数字」が書いてある。

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理解されない苦しさと
「やらなくていいよ」の難しさ

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「指導者にもよるんですけど、自身の生理のことを理解してもらうのはすごく難しいときもあって、実際伝えてるんですけど、上手くできないと『なんでできないんだ』みたいになって。向こうとしてもモヤモヤしている。昨日できていたのが、なぜ急にできないのか分からない。でも一応『生理前なんです』って説明して一応納得はしてくれるんですね。そんなときに良かれと思って「今日はいいよ、やらなくて」と言われると、ここがまた難しいところで。すごく突き放されててる気が(笑)。それで逆にすごくやってしまったり」

面倒くさいですよね、と安藤選手は笑う。

「日頃コミュニケーションとってないわけではないんですよ。むしろすごく取ってるんですけど。でも生理に関しては、やっぱり理解してもらえないんだろうっていう先入観があって…」

一方、韓国人の女性コーチは生理に関しての理解が深く、様々なフォローをしてくれるという。

自分の状態を自分で知るためにも、それをデータとして指導者に伝えるためにも、「日記」での管理が役に立つ。

「それくらい生理は、言語化するのが難しいと感じます」

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生理の話題は確実に
オープンになっている

最近は若い選手たちのほうが、圧倒的にオープンだと感じるという。

「ピルを飲んでいる選手も普通にいるし、情報も調べられる。昔とは全然違います」

選択肢が増えたことは、幸せなことだと感じている。
ただ学生と接する中で、それぞれが悩みを抱えていることも知った。

「先ほどお話したコミュニケーションの部分では、男性が100%理解するのは難しいかもしれないですけど、女性だけじゃなくて男性自身も一緒に知識として学べるような、そういう世の中になっていってるというのは感じています。吸水ショーツもそうですし、選択肢が広がってるっていうこと自体はすごく私としてはありがたいことですし、日本は世界から見てもまだちょっと遅れてるのかもしれないですけれども、それでもちょっとずつ進んではいるんだろうかなって考えると、この先の女性アスリートに限らず、女性が抱えるデリケートな問題もどんどん良くなっていくんだろうなと」

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部活生に伝えたいこと

「まず自分の身体のことを自分で把握するっていうのが何よりも一番大切なことだと思うんですね。もちろんコーチに伝えるのは必要なことなんですけど、自分の身体と一番向き合ってきてるのは自分自身であって、この先ずっと付き合っていかなきゃいけない。 自分が本当にどういった生理の周期と、生理中だけじゃなく、排卵日や月経前症候群とかっていう形でいろんな不調が起こる前にどれに該当してて、その対処の方法とかっていうのをやっぱり知っておいて、事前に準備をしておけるっていうのは大切なことかなと思います」

「ひとりじゃないっていう意味で言うと、団体競技であればチームメイトとそういったコミュニケーション取れますし、私みたいな個人競技でも、 一緒に練習する仲間はいるわけで、話をすることでどういった人たちがタイプとしているのかっていうのを理解できると思いますし、自分がそれこそどれくらい重いのか、どれくらい軽いのかとかっていうことも含めて。そしてそれこそ自分より重い子がいたら気を使ってあげることも必要でしょうし、自分が何かしてあげられることがあるかもしれない。まずは自分の身体を知ることが、『ひとりじゃない』につながるんだと思います」

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インタビュー(YouTube)

全編はYouTubeにて

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